私たちPET検査用のクスリについて話してみました ①
「あなた、今どこにいるの?」
誰に質問されてもドキッとしそうですが… スマートフォンで位置情報を共有するアプリがあるそうです。 GPSを利用して、子どもたちの安全性や災害時などの安否・居場所確認、高齢な家族の見守りなど、つかい方は様々ですね。 昨今は大事な情報が詰まっていますから、スマートフォンそのものを落とした時にも役に立つそうです。 さて、そんなアプリの名称を見てみると”追跡アプリ”なんて名前がついているものがあります。 一方、わたしたちはPET検査でつかうクスリのことを”トレーサー”や"プローブ"と呼ぶことがあります。 Tracer(トレーサー) = 追跡者 PET検査のクスリは調べたい目的に合わせて設計されます。 カラダの中へ入ってから時間とともに変わる居場所のGPS信号をPETカメラ装置で撮っていきます。トレーサーがよく集まるところは信号の数が増えるので強い反応になるわけです。
”どんなヒトがどんなGPSを持っているのか”
私たちはPET検査に使うクスリをまずおおまかに2つの部分としてとらえます。 どんなGPS = PET核種 (18F 11C など ) どのくらいの時間信号を発することができるか 位置情報はどのくらいの精度か ヒトに持たせることができるか どんなヒト = 化合物 (グルコース アミノ酸 など) どんなところに行きやすいか 移動時間はどのくらいか その場所にどのくらいとどまるか 安全か 手に入れやすいか ざっと挙げるとこんな感じでしょうか。 ちなみに、GPSを持ったことで行きやすい場所が変わったり、とどまる時間が変わるなんてこともあります。 (ちょっと気持ちがわかる…) そんなこんなを検討されながらPETトレーサーは開発され、みなさんの検査に使用されています。 もちろんそのほかにも、信号を受け取るカメラや画像化・解析ソフトなどたくさんの要素が検討され、その技術に支えられています。 最近話題になった新しいタイプのアルツハイマー病治療薬「レケンビ🄬」がありますが、 (https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202374.html) 投与対象は厳しく決められています。その中でアミロイドβ蓄積が認められることとありますが、 そのアミロイド蓄積を調べる検査のひとつにアミロイドPETというものがあります。 これはアミロイドβに集まりやすい化合物にGPSを持たせて画像化するということを利用しているのです。 (追記:総合南東北病院では本日からレカネマブの投与が行われました。https://www.minamitohoku.or.jp/news.html?id=310)
PET検査のクスリがすぐなくなるのは都合がいい
以前のコラムでPET検査のクスリはすぐなくなるので日々自分たちでつくると触れました。 すぐなくなるというのは主にはGPSの発信時間が短いことを指しています。 では、 「いつまでもなくならないGPSを使用すれば、毎日クスリをつくらなくてもいいじゃないか?」 もちろん長持ちのGPSを使用したクスリもあり、実験・研究などには利用されています。 しかしPETにおけるGPS信号としては放射線(ガンマ線)を利用しています。 きちんと安全を確認しているレベルとはいえ、ガンマ線による被ばくを伴うわけです。 したがってみなさんの検査においては、終わったのちにサッとなくなってしまうPET核種のほうが都合がいいんですね。 このコラムでは私たちが日々の業務の中で出会う、ちょっとしたこぼれ話も少しづつ取り上げたいと思っています。